ガボンバのバット
五味太郎さんの書評


 朝日新聞全国版 2000/5/22日夕刊掲載

 つい最近現役を退いたプロの大打者Y氏に、ぼくもたずねました。どうしたら打てるようになるの?するとY氏、球をよく見なさい、だって。へっ、そんなことじゃなくってさ、もっと何か、うーん裏の手のようなこと、ききたかったんだけどね、ぼくとしては......。

 でも、この絵本の子象のニコラス君はぼくより偉い。「バットをしんじて、力いっぱいふる」という大打者ガボンバ氏の言葉をきちんと受けとめるのさ。素直にね。そしてやがて彼もプロの野球選手になるのさ。
 この率直さ、純粋さ、そして明解さは、ぼくが好きな野球そのもの。そしてぼくが好きな絵本そのもの。ルーキー絵本作家の第一打席は打点つきの二塁打。




ガボンバのバット
赤瀬川隼さんの書評


 Number 496 (文藝春秋) 2000/5/18日号掲載

子象を主人公にベースボールを描いた想像力豊かな絵本

 スポーツ・チームのニックネームには動物の名が少なくない。日本のプロ野球では、タイガース、ライオンズ、ホークス、その他。MLBでも、タイガース、カブス、カージナルス、その他。猛獣、猛禽、愛らしい小動物や野鳥などさまざま。
 これは、人間の身体の動きを日常的社会的制約から解放し、能うかぎり野性的にのびのびと身体能力を発揮したいという、スポーツ本来の欲求と見合った命名だろう。

 それでは、人間のスポーツを動物がやったら─。こういう想像力は今までにもいくつかの作品を生んできた。たとえば、短篇小説「馬が野球をやらない理由」(ウィルバー・L・シュラム作、文春文庫『12人の指名打者』に収録)。しかしこれは、一頭の馬が人間たちのチームに混じって三塁を守り、好打・好守・好走を示す話である。

 この絵本はそうではない。エレファンツの選手はみんなエレファントで、モンキースの選手はみんなモンキーだ。動物世界のベースボール、そこで展開する単純で骨太なストーリーと作画が実に楽しい。
 子象のニコラスは少年野球で三振ばかり。テレビに映るプロの強打者ガボンバが、ベンチでバットを耳に当て、コンコンと叩いてまるでバットと話しているような様子を見て、そのわけを手紙で聞くところから、ガボンバとニコラスの交流が始まる。「きみのバットをもっておいで」というところがミソだ。

 この絵本を快いものにしている大きな要素として、アメリカの沃野のなかに造られた、手入れのいい深い芝の野球場─ボールパークの描き方がある。低い外野フェンスの向こうに眺望できる野や山脈、入場口の煉瓦の壁、そうした実際のボールパークを作者はよく訪れているのだろう。美しく牧歌的な画だ。

「力いっぱいバットをふったことがあるかい?」とガボンバから聞かれたニコラスの、15年後の姿を描いて、この絵本は終わる。簡潔で力強い作品だ。

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